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東京地方裁判所 昭和31年(行)118号 判決

原告 川口スギ

被告 青梅税務署長

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告提出の訴状、訴状訂正申請書、昭和三十二年二月十八日付準備書面及び同年五月二十三日付第二準備書面によれば、本件請求の趣旨は、被告が訴外多摩機械株式会社の戦時補償特別税に関し原告に対する滞納処分として昭和二十六年十一月三十日別紙物件目録(三)記載の建物につき、昭和二十七年七月十二日同目録(一)、(二)記載の宅地につきなした各差押はこれを取消す。被告は右差押に基ずき右不動産を公売してはならない。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因の要旨は、

訴外多摩機械株式会社(以下訴外会社という)は昭和二十年九月十五日解散した会社であるが、昭和二十一年十一月三十日戦時補償特別措置法施行により、戦時補償特別税の納付義務を有していた。原告はこれより先昭和二十年一月十五日右訴外会社から別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の各不動産を買受け、昭和二十六年十一月二十九日所有権取得登記手続を了したところ、被告は右不動産の譲渡を以て右訴外会社が戦時補償特別税を納付しないで、残余財産を原告に分配したものとみなし、原告に右特別税を右訴外会社と連帯して納付する義務があるとして昭和二十六年十一月三十日別紙物件目録(三)記載の建物を、昭和二十七年七月十二日同目録(一)、(二)記載の宅地を差押えた。しかしながら原告には右特別税を右訴外会社と連帯して納付すべき義務はなく何ら差押を受けるべきいわれはないから右差押は違法であり、したがつて右差押に基いて右不動産を公売することも許さるべきではない。よつて原告は請求の趣旨記載のような判決を求めるというのである。

而して、原告が本件訴状に貼用した印紙額は金五百円で本件訴状に貼用すべき印紙額金七千五十円に対し金六千五百五十円の不足があつたから、当裁判所は昭和三十二年六月二十八日命令書送達の日から七日以内に右印紙の不足願を追貼するように命じ、右命令書は昭和三十二年七月十二日原告に送達されたが原告は印紙の不足分を追貼をしない。

理由

原告が本件訴状に金五百円の印紙を貼用したのは本訴請求を非財産権上の請求とみたものと考えられるけれども一般に行政処分の取消を求める請求、或いは行政庁に対し不作為を求める請求(このような請求が許されるかどうかは別として)を常に非財産権上の請求とみることは妥当でなく、行政処分に関する請求であつてもその請求が具体的に経済的な利益を内容とする権利関係に関するものであるか否かによつて財産権上の請求か非財産権上の請求かを定めるべきものであることはいうまでもない。本件において原告は被告が原告に対する滞納処分として別紙物件目録(一)、(二)、(三)記載の不動産(以下本件不動産という)につきなした差押の違法を主張し右差押の取消及び被告に対し右差押に基く公売をしてはならないとの不作為を求めこれによつて右差押に基く本件不動産の処分禁止を解き、且つ将来引続いて行われるべき公売によるその所有権の喪失を防止しようとするものであるから、右請求は結局において経済的利益を内容とする権利関係に関するものということができ、したがつて財産権上の請求にあたるというべきである。

次に訴額について考えてみると、本訴において原告の主張する利益は前に説明したところにより明らかで、いいかえれば本件不動産の所有権の完全な確保にほかならないのであるから本件訴訟物の価格は起訴の時における本件不動産の価格によつて算定すべきである。而して記録中(八十四丁及び八十五丁)の何れも昭和三十二年五月九日付青梅市長榎戸米吉の昭和三十二年度固定資産証明書中別紙目録(三)記載の建物に対する分によれば右建物の同年度の評価額は合計金百三万二千九百円、同目録(一)及び(二)記載の宅地に対する分によれば右各宅地の同年度の評価額は合計十万七千四百円で以上の総額は金百十四万三百円であることを認めうるから、これにより本件訴提起の時であることが記録上明らかである昭和三十一年十二月三日当時における右各建物及び各宅地の価額もまた右同額であつたと認めるべきである。もつとも右評価額と訴の提起の時とは年度を異にすることは明らかであるけれどもこのことは本件においては右認定の支障とならない。また、記録中の昭和三十一年十一月二十二日付青梅税務署長作成の公売財産見積価格(最低公売価格)通知書写によれば別紙目録(三)の建物の見積価格は合計金六十九万一千円との記載があるけれども公売にあたつて公告される最低公売価格のごときはむしろその財産の適正な時価以下に見積られることが多いのが現状であることは一般公知の事実であり、これに比較して地方税法の固定資産税賦課のためになされる固定資産の評価の価額は通常その物件の適正妥当な価格を示しているものと考えられるから右書面写の存在は右認定を左右するに足らない。他には右認定を覆すに足る証拠はない。

したがつて右訴額に相当する印紙の額は金七千五十円であるにもかかわらず原告は前記のように本件訴状に金五百円の印紙を貼用したのみで不足額金六百五十円の印紙の追貼に応じない。

よつて民事訴訟法第二百二条により本件訴はこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾巖 地京武人 越山安久)

(別紙省略)

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